
ジェンダーバイアスのない医療に向けて―フェムテックが描く新しい未来とは?—
実は、同じような症状でも、患者さんが男性か女性かによって診断が変わってしまうことがあるのです。
今回は、医療の世界に隠れている「性別による扱いの差」について、一緒に考えてみましょう。
医学は昔、男性が“基準”だった?
20世紀の後半まで、新しい薬の試験や治療法の研究に女性が参加することはほとんどありませんでした。
「女性は月経やホルモン変化でデータが複雑になる」「妊娠の可能性があると危険」という考え方のためです。
このような理由から、病気の症状や薬の効き方、治療法も、男性の身体が前提とされてきました。
結果として、女性特有の症状が見逃されたり、正しい診断や治療が遅れたりするいわゆる「医療の男女格差」が生まれてしまったのです。
性別で違いがある症状た治療法がある
心筋梗塞の症状は、教科書に「胸の激しい痛み」や「左肩や腕の痛み」などと書かれています。
実は、これらは男性患者のデータを元にわかったことです。
女性の場合は「胸の痛み」が出ないことも多く、「息苦しさ」「吐き気」「強い疲労感」「背中や首の痛み」などが目立ちます。
けれども、これらは「心筋梗塞らしくない」と見なされ、診断や治療の開始が遅れるケースが少なくありません。
また、薬も同じ問題を抱えています。
男女では体重や体脂肪の割合や薬を代謝するスピードが異なるため、同じ薬でも効果や副作用の出方が違います
しかし、多くの薬は男性のデータを基に量が設定されており、女性では効きすぎたり、逆に効きが弱かったりすることがあるのです。
さらに、生理痛や更年期、産後うつといった女性特有の不調は、「女性なら仕方ない」と長く軽視されてきました。
その結果、我慢を強いられ、適切な治療を受けられない女性も少なくなかったのです。
フェムテックが変える医療の未来
1990年代以降は、研究や臨床試験に女性が参加できる制度が整いました。
「性差医療(男女の体の違いを前提にした医療)」という新しい分野も生まれました。
ここでも注目されているのがフェムテックです。
フェムテックによって、これまで見過ごされがちだった女性の症状や経験がデータとして「見える化」され、診断や治療の精度が高められると期待されています。
また、女性の健康に対する理解が進むことで、職場環境や働き方が改善され、社会全体の生産性向上にもつながる可能性があります。
医療の男女格差をなくすのは簡単ではありませんが、技術の力で少しずつ解決に向かっています。
フェムテックの発展で、これまで声を上げにくかった女性の健康の悩みが、科学的に解決される時代がやってきました。
フェムテックは生理や妊娠・出産、不妊、更年期などの女性個人の問題を解決するだけでなく、一人ひとりに合わせた「オーダーメイド医療」の実現にも役に立っています。
男女共同参画白書 平成30年版 > コラム10 日本での性差医療の実践と展望 ~天野惠子医師に聞く~
https://www.gender.go.jp/about_danjo/whitepaper/h30/zentai/html/column/clm_10.html
Journal of Gender Medicine : Volume 1 Number 1
https://www.jagsm.org/gakkaishi/jogm_1-1.pdf?20250708
Journal of Gender Medicine : Volume 1 Number 2
https://www.jagsm.org/gakkaishi/jogm_1-2.pdf?20250708
経済産業省における女性の健康支援について
https://www.gender.go.jp/kaigi/senmon/keikaku_kanshi/siryo/pdf/ka34-3.pdf
※参照
ONE DOCTOR
女性外来の増加の理由 性差医療が注目される背景とは?
https://one-doctor-cmic.com/gender-specific-medicine